中古レコード屋の店主 里葉風流の「レア盤発掘に王道なし」 #006 マガジン・タイムマシーン (2)

 「きっ、君はいったい誰だね!」30年前の投稿を見てかけた私の電話に、かなり戸惑った様子のHさんは不機嫌に言い放ちました。

 某音楽誌の“わたしの声”欄で、66年から68年にかけて「ビートルズのマンネリ化」「キンクスに耳を向けて!」「サージェント・ペパーズを聞いて」「ドアーズ!ポップス界第二の奇跡」など数々の檄文を投稿しているHさんには、以前から個人的にも興味を抱いていました。特にキンクスに対する認識は的確です。

 “日本でビートルズやストーンズと比べてキンクスのファンというのが全然目立たないというのは不可解でかつ耐え難い。僕は思う。かつて、リヴァプール・サウンドと呼ばれた“音”を正統的に受け継ぎ、造り出している数少ないグループのひとつが、キンクスであると。日本のファンはキンクスのごく表面しか認識していない。「ウェイティング・フォー・ユー」「セット・ミー・フリー」などをラジオで聞いて、それだけで終わるなんてあまりに残念です。ぜひ彼らのアルバムの1曲1曲を、またシングル盤の裏をも一聴してみてください。ほんとうのキンクスがおわかりになるでしょう。”

liverpool sound

 リヴァプール・サウンドというものを単なるブリティッシュ・ポップとして片付けないで、“革新的な音”と評価している66年における高校生の視点がたまらなく魅力的です。

 私の電話の意味がやっと呑み込めたらしく、「なるほど、60年代のロックのレコードが今そんなに人気があるんだ。俺が10代の頃は、ロックなんて肩身が狭かったのになあ。そう言えばこの前、ラジオで若いDJがフーの「アイム・ア・ボーイ」をかけててビックリしたよ」と気持ちが徐々に軟化して来ました。「ジョージの最高傑作は“サムシング”なんかじゃない。“ドント・バザー・ミー”だよ」「キンクスのLPをほとんど買ってる奴なんて当時はいなかった」「今俺が聞いてるのはヘヴィメタ。50でヘヴィメタがんがん聞いてるおやじなんて今時珍しいと思うよ」と、まるで30年間冷却保存されていた熱き魂が一気に解凍されたかのような勢いです。

里葉風流(さとばふうる)