中古レコード屋の店主 里葉風流の「レア盤発掘に王道なし」 #007 マガジン・タイムマシーン (3)

 私もそのまま饒舌なトークに耳を傾けていたのですが、そのうちHさんの口からショックな一言が。

「それがね、今思えば非常に残念な話なんだけど、持ってたレコード2000枚全部を15年前に銀座の中古屋に売払ってしまったんだよ。」
「・・・・・・。」
「でも嬉しいな。60年代のロックが今再評価されてるというのが。いろいろ話聞いてて、俺も当時のレコード聴き直してみたくなったよ。何か久しぶりに気分が高揚して来たなあ。」

 60年代ロックに対する個人的愛着が災いし、その熱心な依頼で逆に所有していたレコードのガードを固くされることがたまにあります。ただHさんの場合は完全燃焼した後のゼロの状態だっただけに、よけい再燃の勢いは早かったと言えます。それから2~3日して、Hさんからいきなり10万円入った現金書留が送られて来ました。「帯とか状態とか関係ないので、WANTに書いてるレコードをとにかくたくさん探して下さい」とのメモが同封してありました。

 それからというもの、ほぼ毎日のように電話がかかって来ました。レコードの在庫問合せや聴いたLPの感想・当時の音楽状況の話など、とにかく熱いのです。

「アナログ・プレーヤーを買って来て毎日聴いてるんだけど、何でこんなにいいのかねえ。ツっぱって今のヘヴィメタなんか聴かないで、素直に昔のロック聴いてた方がどんなに良かったかって最近つくづく思うよ。初めて話すんだけど、俺、売れないピンク小説書いてて何とか食べてはいるけど、ここ10年寝たきりに近い生活をしてるんだ。医者からはいつ死んでもおかしくない体なんだから無理しちゃいけないって言われてるんだ。ウソじゃないよ。それにしても、俺の人生にこんなに感動するものがまだ残っていたなんて・・・。針を落とし音が耳に伝わる連鎖の快感を体がまだ覚えていたんだなあ。昨夜も徹夜して、今朝までずっとキャラヴァンのLPを繰り返し聴いてたんだ。凄くいいよ。」

caravan

 それからHさんは急にシリアスなトーンになって、「本当によく電話してくれました。あなたのやったことは“菩薩行為”にも匹敵します」と真剣に語られたのです。さすが作家だけのことはあって凄い言葉を使うなあと、その時は感謝の気持ちよりそのオーバーな表現に感心してしまいました。

里葉風流(さとばふうる)