中古レコード屋の店主 里葉風流の「レア盤発掘に王道なし」 #010 番外編:「赤と黒のビートルズ」~ヒマ人里葉のオデオン黒盤奮闘記2

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 60年代レコード研究家Yさんのプレスマーク(以下PM、*(註)参考)着眼は、日本盤コレクターにとって正に“コロンブス級”の発見でした。本来ノーテンキな私もYさんの影響で研究者モードにすっかり変身。いろいろと調べて行くうちに66年以前の黒盤には基本的にPMがないことに気付き、視点を変えてレーベルの形状に注目してみることにしました。

 LPのレーベルには中央ホールの周りに溝(段差)の円周があるのですが、各レコード会社によって溝の内周で測った直径が微妙に違っているのです。Yさんともメールでやりとりしながら、おおまかに60年代では、東芝35mm・グラモフォン30mm・キング67mm・コロムビア68mm・ビクター70mmの基本形があることを確認しました。赤盤が例外なく35mmであるのに対し、この来日黒盤は30mm・67mm・70mmの③種類のタイプしか見つからないのです。

 66年のビートルズ来日は、レコード業界においてもかつてないほどの混乱を引き起こしていました。来日決定が報じられたのが4月上旬。来日記念盤の企画がいつ立てられたのか定かではありませんが、PMがほぼ「E6」「F6」(66年5・6月プレス)しか見つかっていないことは、5月下旬の発売及び6月末の来日に間に合わせるべく緊急の大量プレスが行われたことを物語っています。

 以上のことから他社プレスの可能性大と睨んでいたのですが、黒盤にも稀にPMの刻印が確認されるため断定を避けていました。そこへ救世主Yさんから「他社プレスの場合、スタンパーを貸し出して依頼したと考えられますので、東芝型のPMが付いているということはさほど不思議ではないと思います」との甘い囁き。俄然勇気づけられた私は、キングレコードのAさんに他社プレスの真偽を確認してもらうことにしました。

 数日してAさんから「例のプレスの件ですが、スタジオの人に聞いて貰ったら、たまたま当時のベテランが嘱託でいまして、確かに66年頃には東芝盤のプレスを全部ではないですがやっていたようです」とのメールが返ってきました。やったー!ついにウラがとれたぞ!

 Yさんにそのことを伝えたらさっそく返信メールがありました。
「これはビッグ・ニュースですね。ビートルズのDECCAプレスについて色々と調べていましたが、大半のコレクターにとって重要なことは「見分け方」にあるようで、誰かさんが言い出したことの受け売り情報ばかりが氾濫していて、断定されたプロセスがぶっ飛んでしまっているようです。これは、ものすごくフラストがたまっていましたので、ご連絡いただいたお話は、とても溜飲の下がる気がします。やはり、そういうことだったのですよね。状況証拠は揃ったという感じです。ここまで明らかになったのならば、「ビクター・タイプ,キング・タイプ」等、堂々と宣言しましょう! 仮にレーベル形状等の論理的(?)な解明が我々の世代でできなかったとしても、いずれ歴史が証明すると思います。」
 カッチョイ~!ひょっとして僕たちってパイオニア?

 勢いに乗った私は、もう一つの謎「オデオン8000番台の黒盤」(以下8黒)の正体解明に斬りこむことにしました。
 それまでのPM調査で、基本的に最古のものないし重要なものについては現物確認を徹底し(500枚程度)、信頼に足る報告も多方面から入手し情報として管理していました(600枚以上)。8黒は『ビートルズ!』『No.2!』『No.5』『4人はアイドル』の4枚に確認されており、PMは「9J」「ES5」などの報告が届いていました。「Yレポート」では、“PMの例外タイプとして「ES8」「FS2」などがあり、E・Fがそれぞれ69年・70年、数字は月を示すと思われる”と書いてあります。『4人はアイドル』の「ES5」は、69年5月のプレスということになります。他の情報で、『No.2!』の「EG8」という報告があったのですが、「Yレポート」にも触れられておらず、「ES8」の見間違いだろうと思って放置していました。

*(註)プレスマーク(PM)とは
東芝盤のレーベル側面に表示された刻印で、レコードのプレス年月を示す。60年代では基本的にマトリクスの反対側にアルファベット(月)と数字(年)の2文字で表記され、A(1月)・B(2月)・C(3月)と順にH(8月)まで続いて、Iは1と混同するため省略しM(12月)で完結する。(例)6G:1966年7月プレスのこと

g
グラモフォン・プレス(直径30mmタイプ)

里葉風流(さとばふうる)