中古レコード屋の店主 里葉風流の「レア盤発掘に王道なし」 #014 見るだけでいい 前篇 ~大滝詠一/ブルー・ヴァレンタイン・デイ<コロムビアLK-66>

 ネットも何もなかった頃にレコードの通販オークションを始め、既に四半世紀が過ぎました。
 スタートしたバブル直前の時期は、いわゆる非公開(競争相手が見えない)通販オークションの全盛期。ボーナス時期には、音楽雑誌にも毎回30件近い広告がひしめき合ってた気がします。ヤフオク等のネット販売に追いやられて今ではすっかり影を潜め、いまだにその形態に拘る業者は全国でも当店含め数えるほどです(あっ、簡単に数えられてしまった)。ガラパゴス・オークション、略してガラオー(流行らないね)。これまでリストした枚数は、セットセール級も含めると優に5万枚は越えるでしょう。そんな中から、買取にまつわる悲喜こもごもの想いを交えつつ、忘れられない1枚をピック・アップしていくことにします。                                          

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 ちょうど駆け出しの、まだレコードの流通に活気があった時代の話です。
 その頃はレア盤発掘にも王道があり、「レコード高価買取します!」と音楽雑誌に広告打てばほぼ100%の確率でレア盤が入手出来ました。シングル盤でも定番でないけどあまり見ないかなと思えば、何も考えず1000円は出したものです。コレクターも熱かったけど、買取にも勢いがありました。
 岡山在住のシングル・コレクター、Tさんの噂を聞いたのもその頃です。さっそく知人から教えてもらった番号に電話してみました。

「たくさんレコードお持ちって聞いたんですが…。」「ああ、ビックリするほどいっぱいあるよ。」「僕も古いレコード大好きなんで見せてもらえませんか?」「でも大事に集めて来たからね。絶対に売らないよ!」「いいです、見せてもらうだけで。」

 アパートの一室を訪れると、何とそこには3000枚を超えると思われるシングル盤が床にギッシリと並べられていました。その異様な空間でTさんのレコード自慢が始まりました。
 話の内容を聞いていて、直感的に“絶対”じゃないなと気付きました。「いいものがいっぱいありそうなんで、ちょっと査定させてもらえませんか?売らなくてもいいですから。」「ああ、いいよ。」それから30分近くかけて、猛スピードですべてのレコードを選別しました。気になるもの(5000円以上出せるもの)が80枚ほどピックアップ出来ました。「もしよければ、これだけで80万円で買わせていただきますが…。」「ひゃー、そんなになる~?!」Tさんしばらく考えて、「よし、売ろう!」
 “3000枚ある内のほんの80枚で80万円”、というインパクトですね。当然全部で80万だったら1枚も成立してなかったと思います。買取額別にセレクトした80枚で、特に記憶に残っている高額盤がこの「ブルー・ヴァレンタイン・デイ」です。今ではとても5万円では買えないでしょうが、それでもペイ出来た時代があったのです。他の79枚については何一つ思い出せないほどの、遠い遠い昔の話です。

里葉風流(さとばふうる)