中古レコード屋の店主 里葉風流の「レア盤発掘に王道なし」 #015 見るだけでいい 後篇 ~モダン・ジャズ・クァルテット/「宇宙」<東芝AP-8847>

 前回の話でも伝わって来ると思うのですが、とにかく80年代末は時代に勢いがありました。買取広告も単にロック系の音楽雑誌だけでなく、ジャズ系の雑誌にも掲載しました。要するに、「ジャズの愛好家(大人)宅には、学生時代に買って今では不要となったロック・ポップス系のレコードが残っているのではないか」、という発想ですね。“自分の探しているレコードはどこに眠っているか”という視点で常にアンテナを拡げていました。貪欲でしたね。
 その狙いは見事に的中し、面白いように成果が表れました。ジャズ喫茶のマスターから10代の頃に買ったフゥーの「リーガル・マター」含むロック系シングルの塊が入ったり、ジャズ評論家の方から超幻のプログレッシヴ・ロックSFXシリーズの帯付がほとんど入荷したり…。今思い出しても溜息が出ます。

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 大阪S市在住のAさんから連絡があったのも、「スイング・ジャーナル」の広告がきっかけでした。
「1万円以上で買うって書いてあるMJQの『宇宙』を持ってますが、本当にそんな価値があるんです?」
「帯は付いてますか?」
「元からあるものは基本的にそのままにしてますわ。3000枚ぐらいはありますかね。」
「本当ですか!!」
「でも売る気はないんです。広告見て驚いたもんで。」
「見るだけでも見せてもらえませんか?」
「大阪ですよ。本当に広島から来られますの?」
「どこか適当に中古屋に寄って帰りますので、気になされなくて結構です。」

 Aさん宅に伺ったのは、それから1週間後のことでした。ワン・ルームの居間には、立派なレコード棚にぎっしりとLPが収納されていました。期待に胸膨らませて、さっそく見せていただくことに。しかしながら、取り出すLPはことごとくジャズ、ジャズ&ジャズ。たまにボーカル。Aさんは「スイング・ジャーナル」の広告を見て電話されて来た。」確かに理にかなっている。たまたまビートルズのアップル・レーベルからMJQが発売されて、コレクターズ・アイテムとなっていただけの話。そこでハっと我に返る。もう遅い。観念する。
「あのー、『宇宙』だけでも売っていただけないでしょうか?」
「電話でも話したように、売る気はないんですわ。」
「ですよね…。」

 その後も『宇宙』から降りて来た教訓を生かすことが出来ず、似たような体験を2~3度しでかした記憶があります。でも今から思えばそれも有効な勉強代(になってない?)。というか、のどかな時代でした。その発想は他ジャンルにも派生し、クラシック系雑誌にジョン・タブナーの『鯨』<AP-801 99>、ソウル系雑誌にビリー・プレストンの『神の掟』<AP-8813>を掲載したりしました。ええ?『神の掟』お持ちですか!見せていただけないでしょうか?見るだけでいいので…。

里葉風流(さとばふうる)