中古レコード屋の店主 里葉風流の「レア盤発掘に王道なし」 #019 業者間取引という名のノスタルジア ~水谷公生/「宇宙の空間」<MR-5009>

 21世紀になって、一般的な中古レコードの市場価格は暴落路線を突っ走って来た感があります。

 インターネットの普及により個人同士の売買がスムーズになり、それによってハッキリと見えてきた取引価格。アイテムそのもののレア度・人気度がガラス張りとなったことは、中古レコード店がそれまで作り上げていた根拠の弱い希少盤の崩壊を意味するわけで、買う側にとっては実に有益な時代になったと言えるでしょう。

 一方で真の激レア盤の高騰化が加速しているのも事実です。現在インターネットに依存していない魅惑的な(?)中古ショップは、いかほど存在するのでしょうか? ほとんどのお店が大なり小なりネット上に公開された売却額を意識し、仕入れ額や自らの販売力と格闘しながら売値をはじき出していると想像されます。最近では過去10年間のヤフオク実績も確認出来るようになり、レア盤に関しては「買えない、売れない」の買取受難時代に突入しているのが実態です。かつて業者間で交わされていたのどかなレア盤売買や情報交歓は、最近では「入らない、売れない」のグチ交換にとって変わってしまったようです。

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 20年以上も前、東京レコード祭りに参加した時のことです。オープン前にセッティングをしていると、遠くから出店者のAさんが、「里葉さ~ん!これこれ!!」と大声を出しながら1枚のLPを手にして大きく手招きしてきました。近づいてみると、手にしてたのはB店のエサ箱から取り出した超幻盤「宇宙の空間」の帯付でした。売値は29000円。Aさんは洋楽のレア盤ショップで邦楽系には疎く、値付けされた高額設定を半ばからかってるような雰囲気でした。

 Bさんのお店は一般的な中古ショップで、普通にまとめ買いしたうちの1枚のようでした。その後の業者間情報でそれなりに強気な値付けをした様子。私は通販オークションをしていた関係で、その帯付が20万級のアイテムであることを知っていました。当時オークション販売している参加店は少なかったと記憶しています。

 まだその頃は業者間の事前売買が自由だったこともあり、すかさず「10万円でどう?」と提案してみました。即答で「OK!」でした。5万円でも売ってもらえる雰囲気は察していたのですが、「レア盤は売値の2分の1買取」をモットーとしていた関係で気が付いたら躊躇する間もなく「10」という数字を口にしていました。「半分儲かれば充分だろう」「それでダメならいいや」といったダイナミズムに溢れた時代でもありました。

 結果その年のオークションでは、予想通り20万超えの落札となりました(今は10万円の買取では無理かもしれません)。

 今年行われたレコード・フェアーで、何と10年振りにBさんと再会。打ち上げの飲み会でその時の話をしてみました。「ああ、覚えてますよ。あの頃はよく分からなかったから、確か1000円で買ったんじゃなかったかな?」と苦笑顔のBさんでした。業者間取引で共にほぼ同額の純利益。実に“フェアー”な時代でありました。

 何ともお気楽なタッチでノスタルジックに回想してはみましたが、考えてみたらこのレコード、四半世紀に渡ってレア盤追いかけて来て、買取したのはたったの2回だけ。正に10年に1度手に入るかどうかのメガ・レア盤です。普段は「マガジン・タイムマシーン」などといった普通の人から見たらクレイジーとしか思えないような苦労をしているわけで、まあたまにはこんなラッキーだった話もさせて下さい。いずれにせよメガ・レア盤はともかくとして、レア盤は未見のものも含めまだまだ無数に存在します。だからおもしろいんです、やめられないんです、レコードは。

里葉風流(さとばふうる)