中古レコード屋の店主 里葉風流の「レア盤発掘に王道なし」 #020 業者間取引という名の仁義なき戦い  ~ローリング・ストーンズ/ハート・オブ・ストーン<HIT-462>*セカンド・ジャケ

 ヤフオクでの落札額を見てると、「ええ?こんな値段で終わってるの?」と声を上げたくなることが結構あります。昔のことを考えれば5分の1、ヘタすれば10分の1なんてことも。
 レア盤が入りにくくなった現在、個人名義という隠れ蓑で戦わざるを得なくなった業者間の熾烈な買取バトルも容易に想像出来ます。一方で、とんでもない高騰額を目にすることがあります。「確かにレアですよ、でもそこまでじゃあないでしょう」的な。情けない話ですが、業者も所詮レコード大好き人間同士。その高騰化に業者自らが加担しているという話も結構あります。昔はもっとおおらかだった印象はありますが、タイプは違えどそれなりに別の戦いもあったりしたのです。

heart

 地方都市にあるCさんのお店は、店長の人望も厚くおおらかな人柄が愛されてかよくレア盤が入って来ます。音楽への造詣や愛情も深く、顧客ニーズへの対応も申し分ないなかなかの人気店であります。90年代のど真ん中のある日、Cさんから電話がかかってきました。

「ちょっと珍しそうなレコードが入ったんですけど、教えてもらえますか?」「ああいいですよ。何ですか?」
「ストーンズの「ハート・オブ・ストーン」なんですが、見たことのないジャケットなんですよね。」「ひょっとして、赤っぽい初回盤じゃない白地のジャケですか?」
「そうです。」「ええ~!!本当ですか? わー、それ絶対に欲しいです!10万、いや15万までなら出しますから売って下さいよ。お願いします!」
 ヘヴィー・コレクターから30万近いWANTを受けていた、セカンド・ジャケでした。
「そんなにするんですか?? 分かりました。でもお客さんからも見せてくれって頼まれてますので、ちょっと時間下さい。」「分かりました。いいですよ。それじゃあ、送る準備が出来たら電話して下さいね。」

 それから毎日、電話がかかってくるのをひたすら待ち続けました。しかしながら、待てども待てども一向にCさんからは電話がありません。焦らせてはいけないと遠慮しつつ、気が付いたら10日ほどが経過していました。しびれを切らせて、Cさんに電話してみました。

「あの~、例のストーンズのレコードはどうなりましたか?」「ああ、ごめんなさい。あれから急にバタバタと仕事や雑用が立て込んで連絡出来なかったんですが、お客さんに見せたら絶対に譲らなくて、結局常連さんに売ってしまったんです。」
「ええっー!?……。分かりました。」
 あまりにあっけにとられて、つべこべ言わずに電話を切ってしまいました。それからしばらく考えていたら無性に怒りが込み上げて来て、気がついたら1分もしないうちに電話をかけ直していました。
「Cさん、“人間として”恥ずかしくないですか? 僕だったら仮に100万円で買うと言われても、予約交わしてた人に了解を得るまでは絶対に売りませんよ! 遠慮して電話せず、ずっと待ってた気持ちが分かりますか? もう今後は一切交流なしということにさせてもらいますから。」

 絶縁状をたたきつけた私は、「いいですよ、分かりました。」という開き直りを予想していました。人間関係なんて所詮カメレオン。白くなれば相手も白くなり、黒くなれば相手も黒くなる。でもCさんは違ってました。後日Cさんが私に施した対応は、本当に目を見張るものがありました。感動的と言ってもいいほどの。あまり具体的な内容は覚えていないのですが、決してそれに代わるレア盤を数多く提供してくれたというのではなく、「真摯な心意気」のようなものが痛いほど伝わって来たんですね。Cさんに対しては、今現在に至っても何のわだかまりも残っていません。

「商売とは、感動を与えることである。
 商売とは与えるものを見つけることだ。
 真心を 笑顔を 親切を 与えることだ。」 松下 幸之助

 私はそれまでレア盤をコレクターに提供することが感動を与えること、と考えていました。今でも基本的にはそれがベースにあります。でも「笑顔」や「親切」は簡単ですが、「真心」こそが難しい。Cさんから伝わったのはそれだったような気がします。

里葉風流(さとばふうる)