中古レコード屋の店主 里葉風流の「レア盤発掘に王道なし」 #022 夫婦愛とのかけひき ~ ジョン・レノン&ヨーコ・オノ/戦争は終わった<AR-2943>

 これまで数限りない出張買取をしてきました。買取先で様々な夫婦にもお会いしました。長年のレコードに対する拘り、それを陰で支えた(容認した、放任した?)奥さんの夫婦愛(葛藤)。一概には言えませんが、取引終えて二人に漂うある共通した空気を感じることがあります。

“ご主人淋しそう、奥さん嬉しそう”

 まあ奥さんにとっては長年占領していた(うっとうしい?)スペースがスッキリし、臨時の家族収入まで入って来るわけですから。そんな空気感の時は、再出発する(元)コレクターへのエールにも、同じレコード・ファンとして複雑な思いが交錯するわけであります。しかしながら、時に真逆の現象が起こることもあります。浜田省吾に「愛のかけひき」というレア盤がありますが、いつもは放出援護人である奥さんとのかけひきで、かつてとんでもない難儀を要求されたことがありました。

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 数ある夫婦の中でもジョンとヨーコのヒップさは群を抜いています。その特異性ゆえ、69年から72年にかけての4年間にプロデュース作品を含む数多くのレア盤が誕生しました。『未完成 作品第2番』『ウェディング・アルバム』。当時相当なビートルズ・フリークであった私でさえ、この2枚の購入は問題外でした(LP安くなかったですから)。『ローマ法王とマリファナ』なんて、当然のことながら発売されたことすら気づきませんでした。特典インタビュー・レコードと並んで、国内シングル盤における究極のコレクターズ・アイテムでもある「戦争は終わった」。「ハッピー・クリスマス」に曲名変更される前にこのタイトルで発売されていたことを知ったのは、日本盤オークションをスタートしてかなり後のことだったと記憶しています。

 その昔、「戦争は終わった」を含むビートルズ・コレクションを放出したいとの申し出が舞い込んで来たことがありました。ちょうど学校が冬休み期間中だったため、女房や子ども達を引き連れ家族旅行を兼ねて遠く兵庫県K市まで3時間以上かけて車で出向くことにしました。家族と別れて高層ビルのマンションを訪れ、電話をかけて来られたCさんとお会いしました。世間話もそこそこにさっそくコレクションを見せていただくと、『ヨーコ・オノの世界』のプロモーション盤、『平和の祈りをこめて』や『ビートルズ物語』のアップル赤盤等のレアLP群に混じって、「戦争は終わった」の美品が出て来ました。感動的でした。最終的にトータル150万円で買取させていただくことになり、コレクターのCさんからも「納得」の言葉をいただきました。“現金を手渡し”“領収書を受け取り”現物を車に積め“、ホクホク顔で無事深夜に帰宅したのでありました。めでたし、めでたし。

 翌日お店に出てウキウキ顔で買取品を整理していると、1本の電話がかかって来ました。Cさんの奥さんからでした。「昨日主人がレコード売ったと思うんですけど、全部返してもらえないでしょうか。」「……。」一瞬耳を疑いました。これまでも買取直後に「思い入れの強い3枚だけを返して欲しい。」との要望に答えたり、着払い買取を予定してた人から「レコードを梱包していたら未練が出て来て売る気がなくなった。」とキャンセルされたりしたことはありましたが、今回は遠路はるばる出向いて持ち帰りした後の「全部返却」の申し出です。しかも本人ではなく奥さんから。

 最初は意味が分からず、いくら理由を訊いても「もったいないので」の一点張り。こういった場合、商法的にはどうなのか。「そこまで無茶なことを一方的に言われるのなら売値で全部買って下さい。」でも通りそうな気もしますが、そんな泥試合が出来るほどタフな神経も持ち合わせていません。結局10分近くかけて説得し、やっと何とか諦めてもらいました。その後は夫婦間の特殊事情(?)に立ち入るのが恐ろしくて、結局本人にも奥さんからの電話のことは伝えませんでした。

 あれはいったい何だったのか。これまでは奥さんに欲が出たのだろうと簡単に考えていました。でもそれだったら一方的に「もったいない」を連呼するようなことは普通しないでしょう。ひょっとしてあのコールは、その夜がっくりうなだれる主人に成り代わって連呼されたコレクターへのレクイエムとも言えるものだったのではないのかと。そんな夫婦愛に根差した行動だったと思い直してもみたいのですが、やはり冷静に考えてまったくもって理解不能な「珍買取」でありました。

里葉風流(さとばふうる)